二次創作小説

家鴨甘口ソテー ピリ辛風味

「んな口してっと摘むぞ。」 己の唇で。 「やってみろよ。」 拗ねた口調でそうして欲しそうに言う癖に、向けた背中は近づくなとオーラを放ちながらコック然ながらフライパン片手に忙しな くキッチンを動き回る。 「なら、こっちこいよ。」 「今は無理。コックさんはお仕事中。」 「んだ、そりゃ。」 つまらない。 が、それを口にしてしまうのはもっとつまらない。 仕事だと言いながらサンジが作っているのは明日の見張り番のウソップに出す夜食の下ごしらえだ。 何も今でなくていいし、むしろ夜食など食べずともウソップは死にはしない。 などと身勝手なことを考えながらゾロは不自然に突き出されたままのサンジの唇を目で追った。 「なぁ、何でそんな口してんだ?」 理由は知らない。だが、朝から美味そうな唇はぷるんと突き出されたままだ。 しかも、俺と目が合うと思い出したようにそうする辺り、何かあるのではないだろうかとゾロは踏んでいる。 「何だよ、まだ気づかねぇのか?」 言って、自分の手元で器用に振っていたフライパンを置き、火を止めるとサンジがゾロの座るカウンターに向き直る。 「あ?何のことだよ。」 言うとサンジはわざとらしく大きな溜息をつく。 「やっぱな〜…マリモくんにはこの心遣いが分かんねぇのかぁ。」 「だから何のことだ。」 「ん。」 眉を顰めるゾロの前にサンジの顔がずいっと寄る。 「キスしてみ。」 「な…あ?」 サンジからそんなことを言うなど珍しい。が、しろと言われてその機会を逃す訳もない。 言われるままに突き出された些か不格好な唇にゾロが唇を触れ合わせた途端、 「…!?」 ピリッと唇を走った刺激に思わず顔を背ける。 「んな激しく抵抗すんなよ。」 ゾロの態度に剥れたサンジが言う。 「何だ?今の。」 普段のさらりとしたサンジの唇とは違い、ほんの少ししっとりしたそれは、自分の唇と触れ合わせた途端、 ピリっと肌を走るような刺激を伴っていた。 「これだよ。」 サンジがスーツのポケットから取り出したのは小さなスティックだ。 「何だそりゃ。」 「リップクリームだよ。ナミさんから頂いたんだ〜♪」 嬉しそうなサンジに反してゾロはまだ納得がいかない。 「リップクリーム?それが何でピリピリすんだよ。」 「唐辛子入りなんだ。」 「は?」 「知らねぇのか?唐辛子っつーのは美容にもいいんだぜ?」 「へぇ。って…しっかし、お前…。」 そんなものを唇に塗って痛くないのか。とは何となく幼稚っぽくて聞けないが、ゾロの唇に走った刺激は一日中塗っておくには 少々辛いものがある。 「まぁ、初めは結構痛ぇなって思ってたけど、慣れればそうでもないんだぜ?それにちゃんと香辛料の味もする。」 そう言って赤い舌が唇の端を舐める様はほんの少し妖艶で、ナミが香辛料の輸出入のさかんな島で手に入れたと言うそれはコック であるサンジのお気に入りらしい。何より、ナミがサンジの誕生日プレゼントの一つとして与えたと言う部分が大きいらしい。 「味見させろ。」 「は?」 返事も待たず、目の前の唇に被りつく。確かに香辛料独特の風味は忠実に再現されている。何よりアヒルの口にはもってこいだ。 「う、あ…ちょ、ゾロ!リップクリームなんだから舐めんじゃねぇ。」 啄み始めたらその気になってしまった気持ちを隠して、ゾロはサンジの体をカウンターの上から自分の方へ引き上げた。 「後で塗り直せ。」 とりあえず一通り味わいたい。 「な、ふざけんな!」 「こうして欲しくてやってたんじゃないのかよ?」 一日中、無体に唇突き出しやがって。耳元で囁くと、甘え心が騒いだのか真っ赤な顔で睨み返してくる。 「キスして欲しいならそう言え。」 言いながら触れるだけのキスを交わして、蕩け出した頭の端で今日はこのままぐだぐだ流れ込むだろうと予想してゾロは口の端で 少し笑った。 「…そう言うのはお前が気づかなきゃ意味ねぇんだよ、馬鹿。」 誰のために気遣ってると思ってるんだと、ポケットの中のスティックに触れながらサンジが言う。 相変わらず下手な甘え方だ。 「お望み通り上手く食ってやる。」 併せた肌の間をピリピリと走る刺激を楽しみながら、ゾロはその合わせ目に舌を這わせた。


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