二次創作小説

甘い弱点

「新一。」 「ん?」 あたしの膝を占領している彼に呟く。 「好き。」 「知ってる。」 「何それ。」 「なんだよ。」 「…なんか悔しい。」 最近の彼は前よりも余裕のある顔をする。付き合い始めた頃は、好きの二文字に驚いた顔をしたり、真っ赤になったり。 もちろん、あたしもだけれど。 でも、最近は違う。 なんだかあたしばっかりいつまでも新一に一喜一憂してるみたい。 元々ポーカーフェイスの彼は、慣れてしまったかのように甘い言葉を簡単にくれる。 「少し眠ったら?」 あたしの膝の上で、何をする訳でもないのにぼ-っとあたしを眺める彼に言う。 「なんでだよ。」 「昨日も遅くまで事件だったんでしょ?」 そう言うと、彼は何事もないかのように言う。 「蘭が傍にいるのに、眠ったらもったいねぇだろ。」 ほら、これ。いつからこう言う殺し文句をさらっと言えるようになったのよ。 けれど、あたしの心中に反して、彼は自然と赤くなるあたしを見て、楽しそうに笑っている。 悔しい。仕返しがしたい。 そう思ってることを、志保に相談したら、 『とっておきの一言を教えてあげるわ。』 そう言われたことを思い出し、あたしは深く考えずに言ってしまった。 「新一。」 「あ?」 「今日、泊まっていい?」 「なッ!!」 彼が真っ赤な顔で、勢いよくあたしの膝から起き上がる。やった、なんて浮かれる暇もなく、あたしは彼のその反応に、何だか とんでもないことを言ってしまった気がした。 「あ、やっぱ嘘。」 慌ててそう言うと、彼は今日1番の不機嫌な顔を見せる。 「なんだよそれ。」 ごめん、と苦笑するが、いつの間にか彼の顔がにやっと歪んでいることに気付く。 「まぁ、どっちにしても今日は帰す気なかったけどよ。」 その言葉に、あたしはまた苦笑するしかなかった。 やっぱり、今日も彼のペースにやられっぱなし。 結局あたしは工藤邸にお泊りが決定し、ちゃっかり工藤邸の湯舟にまで浸かってしまった。ほてった身体のまま階段をあがり、 新一の部屋へ足を運ぶ。少し長く入り過ぎた気がしたけれど、先に入った彼は予想外にしっかり起きていた。 「あれ?新一まだ起きてたの?」 って、寝てる訳ないか。 と言う考えが頭を過ぎったけれど、待っててくれたんだ、そう彼に笑いかける。すると、 「べ、別にそう言う訳じゃねぇけどよ。これ読んでたからよ…。」 と、ぶっきらぼうに返事が返ってくる。 嘘つき。いつもなら本読んでる時はあたしが話しかけたって返事しないくせに。 「そ。」 あたしは含み笑いを見せながら、小さくそれだけ呟く。 「何だよ。」 「別にぃ-。」 彼が不機嫌な顔をこちらに向けるが、あたしは気付かないふりをした。 あたしはベッド脇のコンセントにドライヤーをセットし、上に寝転がっている彼の下に座る。すると、彼の腕があたしの持って いるドライヤーに伸びる。 「貸せよ。」 そう言って、彼はあたしの髪を撫でる。 「ちゃんと乾かさないと風邪引くぜ?」 「ありがと。」 そう言って、彼の指が髪を梳いていく感覚を楽しんだ。 誰かに髪を触られるのは気持ちいい。それが、丁寧に扱ってくれる彼なら尚更そう。 「…オメー、髪伸ばしてんのか?」 未だ手をあたしの頭の上で忙しなく動かしながら、彼が呟く。 「どうして?」 「いや、ガキの頃より伸びてっから。」 「う-ん…別に伸ばしてるわけじゃないんだけど……長い髪嫌いだった?」 そう聞くと、ドライヤーの風の音に紛れて照れたような言葉が微かに聞こえた。 「…好き…だけどよ…。」 あ、きっと真っ赤だ。 そんなことを思いながら、笑いを堪え、彼のために振り返るのは我慢した。 「さっきの『知ってる。』ってさ、」 「ん?」 「なんかいいよね。」 彼がカチっとドライヤーのスイッチを切る。辺りが少し静かになり、彼ができた、と呟く。 「オメーさっきと言ってること違うじゃねぇか。」 彼がドライヤーを片しながら言う。 「そうだけど、」 でも…、とあたしが言うと、怪訝そうな顔でこちらを振り返る。 「新一が小さくなってた時に、あたしが新一を好きだって知られてたのは別だけどね…」 と話し始めると、彼が顔をしかめる。 「痛いとこ突くんじゃねぇよ。」 あたしは小さく笑って続ける。 「でも今は、あたしも新一があたしを好きだって『知ってる』から、あたしの好きが知られてるのも、なんか嬉しい。」 そう言ってから、何も返事を返さない彼の様子に、はたと思いつく。 「あたしの言ってること、あってるよね?」 新一も、あたしを好きだよね? 彼の顔を覗きこむと、彼は頬を染めたまま不機嫌そうにそっぽを向く。 「…当たり前だろ。」 そう呟いて。 あ、あの頃と同じ。 そんなことを考えていると、次の瞬間の彼はまた余裕たっぷりのポーカーフェイス。 「じゃなきゃ、わざわざ理由つけてオメー の髪触ったりしねぇよ。」 と意地悪く笑う。 あ…、その顔。 そう思う間もなく、彼は言う。 「ま、髪だけじゃ足りねぇけどな。」


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