二次創作小説

そんなこと出来るか

「おい。」 「…。」 「おい!」 「おい、じゃ分かんねぇ。」 「~~~~~!」 コックの機嫌が悪い。 今日に限って頗る悪い。 「あんた、また何かしたんじゃないの?」 キッチンを出ると、中を窺ったのか、乾板にいたナミが鬱陶しそうにビーチテーブルに肩肘をつく。 「何もしてねぇ。」 「何もないのに何でサンジ君はあんたにだけご立腹なのよ。」 「知らねぇ。」 ロビンが珈琲を口に運ぶ。 「昨晩、満足させてあげられなかったのではなくて?」 「!?」 それはねぇ。昨日だってちゃんと俺の腹の下でよがって…。 「ちょっと、妄想止めて。」 魔女のように長い爪がゾロの頬に直角に食い込む。思いの他痛くて肩が竦んだ。頬も鍛えねぇと。 「名前ではなくて?」 ロビンが言う。 「名前?名前なんて今に始まったことじゃないじゃない。」 ナミが言う。 「けれど剣士さんが無愛想な時は特に怒っているように感じるのだけど。」 またロビンが言う。 「そうねぇ…。」 とまたナミも言う。 「おい。」 「「それよ。」」 「あ?」 話に省かれていたかと思えば魔女達の爪先が自分に向けられ、また僅かに怯む。どうもピンクや紫に染まった指は苦手だ。 「それって何だよ。」 訝しげなゾロに、ナミは得手したようにふんと鼻を鳴らす。 「あんた、亭主関白すぎるのよ?」 「あ?」 「そうね。剣士さんはもう少し自重すべきかも。」 「は?」 うんうん、と頷くナミ達を尻目に、ゾロは眉を潜めるだけだ。 「名前で呼んであげた?」 言ったのはナミだ。 「今更名前なんてって思ってるでしょ。」 確かに。 「それだけではないわね。コックさんに何かを頼むのも、してもらうのも、分かってくれるからと甘えているのではなくて?」 ロビンに言われてぞろぞろは首を傾げて考え込む。見兼ねたナミが呆れた顔で 「例えば、お茶が欲しい時に…。」 「「おい、とか。」」 た、確かに…。 「んなの今に始まったことじゃ…。」 「なくても今のあんたとサンジ君は前とは違うでしょ。」 ゾロの言葉をナミが遮る。それもまた例に倣って確かなことだった。 つい先日、ゾロはサンジを初めて抱いた。 近頃コックの視線がやけに突き刺さるなと思っていたらそれは武器用な愛情表現で、 紆余曲折を経て自分も好きだと伝えた後も、最近コックがやたら晩酌に付き合うなと思っていたらそれもモノにしてくれという 分かりにくい誘惑だった。思惑通りに落ちた訳ではなく、ゾロも鍛錬の成果を有意義に利用した せ我慢だったので、そうだと分 かればあっさりとタガが外れた。 「言いたかないけど、あたしはホモカップルに平和な日常を掻き乱されるなんてごめんなのよ!」 うんざりした顔でナミが言う。ロビンも言い添えるように口を挟んだ。 「でもね、クルーが喧嘩なんてもっと気分が悪いものよ?ねぇ、ナミちゃん?」 ナミは腕を組んだままふん、とそっぽを向く。 「コックさんに謝って来てはどう?」 珍しく正当な意見で女性陣に叱咤され、さすがのゾロも頭を掻いた。 「…仕方ねぇな。」 言いながらデッキへの階段を上がると、ナミの長い爪がまたビシリとゾロに向けられた。 「キッチン、汚さないでよ!?」 暫しどう言う意味か考え、合点がいったところで片手を上げて返事をした。 「いるか?」 キッチンの扉を開けながら、いると分かっていて声をかける。 見なれた金髪が忙しくカウンターの向こうで動いていたが、返事はない。そう言えば、もうすぐ夕飯の時間だ。 「こっち向け。」 「忙しいんだ、邪魔すんな。」 直ぐ真後ろに立ってもつっけんどんな返事しか返ってこない。 いつもなら腕を掴んで苛立ち混じりに無理矢理を強いているところだが、今日はそうはいかない。ゾロはぐっと堪えて一歩引いた。 「喉乾いてんだよ。」 言うと、サンジがちらりと後ろを振り返って眉を顰める。ナミ達の言った通りだと思った。 いつもゾロがそれだけ言えば流れるようにサンジが動いてあっと言う間に上手い緑茶が出てくる。礼を言ったこともない。 ムッとした顔のまま湯を沸かし始めるサンジを見て、ゾロはなるほどな、と思う。ゾロは一人納得しながら不機嫌なサンジから 離れ、テーブルにつく。何となく普段言わないことを口にするのは気恥ずかしいが、味を覚えたばかりの奴から何日もお預けを食 らうのはさすがに辛い。 ゾロが一呼吸置いた。 「茶くれ、サンジ。」 ガシャンッ!! 隣で派手な音がして、サンジが持っていた茶葉缶ごと視界から消えた。 ゾロが腰を上げてカウンターの向こうを覗き込むと、真っ赤なサンジがキッチンに屈み込んで、 あたふたと零れた茶葉を拾っていた。 「ち、ちょっと待ってろ…。」 消え入りそうな程か細い返事が脈絡もなく返ってきて、ゾロはにやりと笑って腰を落とした。 暫くして、サンジがいつもの緑茶を運んで来た。目が泳いでいるので、いつも通りなのは緑茶だけだ。 緑茶の入った湯飲みが静かにテーブルに置かれ、運んで来た腕がスーツの袖に引っ込むのを見計らって、ゾロががしりとその手を 掴んだ。サンジが驚いてゾロを見る。 「さんきゅ。」 「…!」 ゾロの言い慣れていない気怠げな礼に、サンジががくりと力を抜いた。 「お、おう…。」 そう言うサンジは真っ赤で、昼間の言葉尻の棘も抜けている。ゾロは心の中で静かにガッツポーズを浮かべた。 ふと、ゾロは掴んだままだったサンジの手に目をやる。白く男の割にきめ細やかなのはいつも通りだ。 「お前、爪短いんだな。」 言われてサンジも自分の手を見る。ナミ達と違い、色染めがなく先の丸い爪は子供のそれのようだ。 「当たり前だろ。爪の長ぇコックなんて居ねぇよ。」 「そうか。」 すんなり言うゾロにサンジは僅かに眉を下げる。 「何だよ、そう言うレディが好きなのかよ。」 「いや、こっちの方がいい。」 レディ、と言ったのはサンジの負け惜しみだったが、またもやすんなり答えるゾロに、サンジは今度こそ舌を巻いた。 「な、何だよ。今日のお前、何か変だぜ?」 困ったように言って、ゾロの手の中から自分の手首を抜こうとするが、馬鹿力の下ではそうもいかない。 ゾロの高い体温が伝わって、サンジはさらにあたふたと落ち着かない。 ゾロがその様子を余裕な様で眺め、合間を見計らってひょいとサンジを自分の元へ引き寄せた。その動作にサンジは更に慌てる。 「だ、駄目だ!これから夕飯が…。」 「後でいい。」 「馬鹿、てめぇは良くてもレディ達が…。」 「それなら大丈夫だ。」 暴れるサンジを抱え上げ、ゾロが席を立つ。 「何でだよ!」 格納庫まで繋がる船内の扉に手をかけながら、ゾロは不適に笑って見せた。 「汚すな、とは言われたが邪魔するな、とは言われてねぇからな。少しくらい遅れても今日は平気だ。」 言葉尻をかき消すように閉まった扉の向こうで、諦めたサンジがぎゅっとゾロの肩口を握った。 「最悪…。」 「最高。」 重なった声に二人顔を見合わせ、サンジは溜息を、ゾロは鼻息を深くした。 格納庫の床に適当に敷いた麻袋に居心地悪いとサンジが言うので、ゾロは自分の上に素っ裸のサンジを抱え上げて大人しくさせる。 「何なんだよ、てめぇ。訳分かんねぇ。」 腰が怠いのか、ぺたりとゾロの胸板に頬を寄せたまま、サンジが言う。甘えておきながら減らず口を叩くサンジに、 ゾロはどっちがだ、と心の中で悪態をついた。 「てめぇが怒ってたのはあぁ言うことだろ。」 呆れたようにゾロが言うと、サンジはばつが悪そうに目をつむる。 「別に怒ってねぇよ…。」 「嘘つけ。」 「嘘じゃねぇ!」 サンジがガバリと体を起こし、痛てと呟いて腰を抑える。無理すんじゃねぇ、とゾロが腰をさすってやると、 小さな声で唸りながらまた胸板にへばりついた。 「怒ってねぇよ…。ただ、変わんねぇのかと思っただけだ。」 「何が。」 「俺たちが、だよ。」 サンジの言葉の意図が分からず、ゾロは体を起こして首を傾げる。サンジは上に乗っかったままだ。 「てめぇ、俺が仕掛けなきゃ自分から動かねぇしよ…俺ばっかりじゃねぇか。」 拗ねた口調に、ゾロは自分の せ我慢が実を結んでいなかったことを知る。軽いショックを覚えながらも、 ゾロはサンジを覗き込んで誤解の撤回に尽力する。 「これでも気ぃ使ってたんだよ。てめぇもいつもみたいにはっきり物言えば分かることを回りくどい遣り方しやがって。」 体を繋げることに関しては、必然的に受ける側になるだろうサンジのことを考えた上でのことだった。 「何だよ、俺が悪いのかよ。」 クチを尖らすサンジの髪をツンと引っ張って違ぇと言う。 「だからよ…上手く言えねぇが…。」 苦心するゾロをサンジが覗き込む。 「もう少し、上手く甘えろ。」 「なっ…。」 んなこと出来るか。 サンジは頬を染めながら咄嗟に思った。が、ゾロの顔は真剣だ。 要するに、自分の表現能力ではゾロが理解すれためには乏しすぎると言うことだろう。 「わ、分かった。そ、その代わりお前も…。」 言われっぱなしでは癪だと思い、サンジは必死で考えを巡らす。 見つめ返してくるゾロの視線に慌て、咄嗟に思いついた言葉がこれだった。 「も、もっと俺のこと欲しがれ…?」 「おま…っ!!」 んなこと出来るか!今でMAXだ!! とはさすがのゾロも言えなかった。跳ね上がった血圧を宥めすかして、 「わ、分かった。」 と男らしく答えたつもりになった。が、上がった血圧はそう簡単には下がらない。 「おい、マリモ。」 「何だ。」 「何か当たってるぞ。」 何ってナニだ。 サンジは自分の腹回りを顔を顰めて見ている。いつの間にか腰に回っていたゾロの腕が怪しげな動きをしている。 サンジは流れに任せてゾロに乗っかったことを後悔した。 躊躇いながらゾロが言う。 「なぁ、さっきの…。」 「何だよ。」 嫌な予感がした。 「変な体位とかでもいいのか?」 「んなこと出来るか!!」






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