創作小説
DOLL
A
「あ、隆二。」
足音を聞き分け、思わずふり返る前にそう言ってしまった。けれど、隆二はそんなことを気にする様子もなく、
あたしを見つけると真っ直ぐとこちらに向かって歩いてくる。
「お。えーと…。」
「柚亜!!」
わざとらしく悩む素振りをするので、すぐにそう叫ぶと、彼は可笑しそうに笑った。
「冗談だよ。それにしてもお前、毎日暇なんだな。」
「うん。」
そう言って隣に腰を降ろす彼を見ながら頷く。彼は予想していたと言わんばかりに声を上げて、
「いや、冗談だって。」
とまた笑う。
「あ、ごめん。」
いや、と断る彼が猫のように一つ伸びをして寝転がる様子を眺めた。相変わらずここに寝転がるとすぐに眠そうに瞼を瞬かせる。
「お前、友達とかは?」
彼が目線だけこちらに投げかけるのを見て、迷わずその瞳に返すように人差し指を向ける。
「ん。」
彼は今度は、はあ、と小さくため息をつく。あたしはまた首を傾げる。
「俺以外でさ。」
そう言うので、少し考えて答える。
「いない。」
「兄弟も?」
「うん。隆二はいるの?」
逆に聞き返すと、彼はもたげていた頭を地に降ろして空を眺め、
「ああ。兄貴がな。」
と言う。
隆二のお兄さんか…。どんな人なんだろ。
あたしは彼を真似て空を眺めながら、考える。彼にそっくりなもう一人を思い描いて、一人微笑する。暫くそうしていた後、
「ふうん。」
と思い出したように遅れた返事を返した。それを聞いて隆二は思い付いたように、
「ってことはお前、いつも一人で何してんだ?」
と言う。ちらりと横目で彼を見ると、目を瞑って今にも眠ってしまいそうだ。あたしはそんな彼を見ながら一言、
「隆二を待ってる。」
と有りのままを答えた。実際、そうなのだから。
暫くすると彼が瞑っていた目をパチリと開け、ゆっくりと顔だけをこちらに向ける。
彼は視線がかち合ったまま口をヘの字に結んで黙っている。
「…。」
「何?」
何か可笑しなことを言っただろうか。あたしが口を開くと、彼はそのまま
「お前、それ天然か?」
とやけに真面目な顔で聞いてくる。
「天然?」
何が、天然なのだろうか。顔?性格?気質?…素材?
「うん。」
ふと頭に浮かんだ自分の純鉄の造りを思い出して、深く考えずに頷いた。
そんなあたしを知ってか知らずか(もちろん知らず)、彼はまた大きなため息をついて、左手で自分の頭を何度か掻く。
ひどく呆れたような顔をしていたが、
「ほんとかよ…。」
と呟いた口元は小さく笑っていた。
「変なやつ。」
そう言って、また長い睫毛を臥せるまで。
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